あらすじ

純喫茶「レトロ」を継いだ店主・三好陽介は、毎週金曜15時に同じ席へ座る老紳士・頼近の振る舞いに小さな違和感を抱く。煙草も吸わないのに毎週マッチ箱を持ち帰る男が、ある日限り書き込みを添えて箱を置いていったのだ。記号めいた「3-C 15:00 赤 白2」を前に、陽介は空想を巡らせるが、アルバイトの葵に「店の伝票の書き方と同じ」と指摘され、現実的な解読へと戻される。  「3-C」「15:00」が席と入店時刻だとすれば、「赤」「白2」は品名の隠語ではないか。しかし現在のメニューにその表記はない。ふと陽介は、亡き母・マユミがナポリタンを「赤」、アイスコーヒーを「冷」と呼んでいた記憶を呼び起こす。母のいた時代だけの呼び方ならば、それを知る者は昔の客だけだ。  二人は開店当時の伝票控えが眠る二階の物置へ。昭和五十三年の開店日から伝票を辿ると、金曜15時の「3-C」には母の字で「赤 冷」、やがて「白2」が加わった記録が見つかる。さらに父のレシピノートの余白には、「白=練乳。マユミの考案。金曜三時の学生さんの分だけ、ふたさじ。(俺の分はない)」と。父の片思いの痕跡に苦笑しつつ、陽介は写真の隅に写り込む学生が頼近だと気づく。半世紀越しの“伝言”は、母への感謝と青春の記憶だった。  翌週、陽介は母のレシピ通りに練乳を効かせたナポリタンを振る舞い、マッチ箱に「済」と書き添えて返す。味を知った頼近は涙ぐみ、ガムシロップの数を一つ減らす。日常は元通りだが、二人の間にだけ通じる“伝言”は確かに届いた。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
エブリスタ
エブリスタ2026/10/01
  • 現在の作品喫茶レトロの「伝言ナゾトキ」