あらすじ
「リリアは妹みたいなものだから」
子爵令嬢セシリアの婚約者、伯爵家嫡男アルバートの口癖だ。
舞踏会では幼なじみの伯爵令嬢リリアをエスコートし、買い物にも付き合い、誕生日には婚約者より高価な首飾りを贈る。寂しいと一度だけ口にしたセシリアに返ってきたのは、「家族に嫉妬するなんて、みっともない」という言葉だった。
自分が我慢すれば、丸く収まる。
そう信じて六年を過ごしてきたセシリアは、春の王宮晩餐会の夜、ようやく気づく。婚約者として名簿に載っていたはずの自分の名前が飛ばされ、アルバートの腕にはリリアがいた。
彼女が家族なら、私は何なのだろう。
セシリアは怒鳴らない。泣きもしない。ただ一言だけ告げて、その場を去る。
「妹を大切になさってください。私は他人になりますから」
本気にしない元婚約者。体面を気にする両親。泣けば誰かが折れてくれると思っている幼なじみ。
それでもセシリアは、あの夜の出来事を王宮典礼局の記録に残し、自分の言葉で婚約の解消を申し立てる。
そこで出会ったのは、礼儀と約束を何より重んじる典礼局長官、レオンハルト・グレイヴス侯爵。誰にも肩入れせず、記録と事実だけで判断する彼のもとで、セシリアは初めて「顔色をうかがわなくていい場所」を知る。
婚約者の家のために長年こなしてきた名簿づくりや席次の知識を活かし、典礼局で働き始めたセシリア。自分の名前で給金を受け取り、自分の部屋を借り、失敗しながらも少しずつ信頼を積み重ねていく。
一方、彼女がいなくなったクレイン家では、これまで当たり前のように回っていたものが、少しずつ崩れはじめていた。
これは、誰かに選ばれるのを待っていた女性が、自分で人生を選べるようになるまでの物語。
※元婚約者への復讐ものではありません。恋愛はゆっくり進みます。全50話完結予定。