あらすじ
「日本の出汁の旨味を生んだのは、昆布ではなく倉庫である」
食文化史の准教授・鰹木は、学会でそう言い切り、会場の失笑を買った。最前列でかつての恩師が眼鏡を拭くのを見ながら、彼は誓う。倉庫の環境は数字で書ける。数字で書けるものは、機械で作れる、と。
自作の装置「蔵守一号」を抱え、海鮮料理目当てのゼミ生・汐里を連れて北海道の港町へ。訪ねた昆布問屋の石造りの倉庫には、二十五年眠り続ける昆布の束があった。「先代の管理は、この機械で代替できます」と胸を張る鰹木に、無口な老主人が差し出したのは、四十年分の古い帳面だった。
「代わりができるってんなら、これを全部、そいつに覚えさせてみな」
数字を信じるちょっとピントのずれた学者と、数字にならないものを知る老人。港町の倉庫で過ごす数日間を描く短編。
【三題噺 #165】「布」「学」「倉庫」