あらすじ
主人公・藤崎トシヒロは56歳で会社を早期退職、タクシー運転手となり3年が経つ。年の暮れ、とある病院での出来事から物語は始まる。
同僚の見舞いを終えた帰りのエレベーターの中で、僕は後ろから突然声を掛けられるのと同時に袖口を掴まれる。
「トシくん」と声を掛けたその初老の女性は、車いすに乗っていた。 それから少しの間、ロビーで話をすると小学校時代の同級生らしい。彼女が語る内容は、まさしく自分の記憶と一致する。しかし、僕を初恋の相手だという彼女を前に、名前も顔も思い出せない。
「キミ…と呼んでくださいな」彼女は僕にそう呼ばせ、年明けの再会を誓い、手紙を送ると言って別れる。
4週間経った「ひと月」後、それより少し前に届いた1枚の葉書だけを頼りに待ち合わせ、二人は再会を果たす。彼女は病院で会った時より大分元気になっており、食事や水上バスに乗ったりと、つかの間の恋人気分を味わう。
そして「ふた月」後、同じように再会した彼女から、驚くべき事を告げられる。それからも「ひと月」に一度の逢瀬を重ねるも、彼女の名前は未だに思い出せないでいる。
名前を問うと、いつも決まって返される彼女の言葉、
「いつか思い出して下さいな…」
果たして僕は、彼女を思い出す日が訪れるのだろうか?