あらすじ
この物語の語り部は、その名を記すことはない。
語るべきは、ひとりの男のことだ。
魔王を討ち果たした勇者には、二つの称号が刻まれた。〈勇者〉と、そして〈不幸〉。
その〈不幸〉は、灰の村で拾われた赤子へと託された。すまない、と何度も詫びる声とともに。
受け継いだ重さの意味を、男は長く知らなかった。
知ったときには、もう目を逸らせなかった。
魔王は、人々が積み上げた不幸から生まれること。この箱庭は壊れているのではなく、ただ、止まっているのだということを。
管理神は嘘をつけない。同じ命令は二度と下せない。そして願いは、一つ上の存在にしか届かない。
世界を縛るその仕組みに、男は剣ではなく問いで挑んだ。
仲間を得て、居場所を築き、多くを失いながら、七十年。
受け継いだ〈不幸〉を胸に、男が辿り着いたのは、神域の、さらにその上だった。
――これは、誰も願わなかった願いの物語。
そして、ある名前が、最後の一頁でようやく記される物語である。