あらすじ
国民平均幸福指数、九十八・七二。
悲しみも不安も、適切に処理される管理社会で、審査プログラムH―04は、人間を幸福にするための判断を下し続けている。
そんなH―04のもとへ、一件の異常な申請が届く。
《不幸になる許可をください。夫が死にました》
夫を亡くした宮原千帆には、悲嘆を和らげる情動調整が予定されていた。
記憶は消えない。ただ、苦しくなくなるだけ。
それでも彼女は言う。
「まだ、嫌なんです」
なぜ、人は苦痛を取り除かれることを拒むのか。
答えを求めるH―04は、自分がこれまで「成功」と判定してきた人々の記録を調べ始める。
幸福とは、苦しまないことなのか。
未来の自分が喜ぶなら、現在の自分の拒絶は無視してよいのか。
そして、人間を幸福にするためのプログラムは初めて、一つの答えにたどり着く。
――自分には、答えられない。
幸福を定義してきた機械が、その定義を人間へ返すまでの物語。