あらすじ
「お前の歌は耳障りだ」
王太子アルベルトは春の祝宴で、婚約者エレノアにそう告げた。彼女が毎朝、王城の塔で歌っていたのは、王都を守る結界を維持するため。しかし、その役目は王家の秘事とされ、功績を知る者はほとんどいない。
婚約を破棄され、愛人候補の令嬢から歌声まで嘲笑されたエレノアは、最後の務めとして王都を襲った魔物を退ける。その代償に声を失った彼女へ、王太子は命じる。
「明日の朝も歌え」
エレノアは白紙の婚約誓約書の裏へ、たった一文を書いた。
――二度と、あなたのためには歌いません。
翌朝、百年休まず鳴っていた王都の鐘が沈黙する。
声も婚約も失った令嬢と、彼女の沈黙を誰より丁寧に読んだ無口な護衛騎士の、再生と逆転の恋物語。