あらすじ
夜になると、人々の記憶が失われる世界。
零れ落ちた記憶が化け物となった『夜喰い』を処理する部隊《夜番》。
そこに所属する二十一歳の青年ニコは、忘れることにあまり頓着しない。
写真を撮って、メモを残して、それでも零れ落ちたものなら仕方がない。
人付き合いだって、楽しいならそれでいい。誰かひとりに執着する理由なんて、これまでなかった。
そんなニコを拾い、長年面倒を見てきたのが、十二歳年上の《夜番》の隊監、ダリオ・ヴァレンティだった。
飯を食え。無茶をするな。勝手にいなくなるな。
口うるさくて、生真面目で、世話焼きで。いつ帰っても、だいたいそこにいる『教官』。
ニコにとっては、それだけのことだった。
自分のカメラに、いつの間にか教官の写真ばかり増えていることも。
誰に触れられても平気だったはずなのに、ある日突然「なんか違う」と思ってしまったことも。
結局、教官のいるところへ帰ってしまうことも。
しばらく、その意味を知らなかった。
一方のダリオは、もっと面倒くさい。
危なっかしいニコを放っておけないのは、庇護欲だ。
帰りが遅ければ気になるのも、誰かについていく背中を見送るのが面白くないのも、きっとそれだけ。
そうでなければ、困る。
拾って、守って、面倒を見てきた相手に、自分がそれ以上の感情を抱いていいはずがない。
そう思っていたのに。
「俺、教官がいい」
誰でもよかったはずのニコは、初めてひとりを選んでしまった。
そしてダリオは、選ばれることを望んではいけないと思っていた。
……どうやら教官は、ニコを好きになってはいけないらしい。
ニコには、いまいちその理屈がわからない。
世話焼きで生真面目な年上の上司×貞操観念も生活能力もガバガバな年下の部下。
写真を撮ったり、煙草の火を借りたり、知らない誰かと夜を過ごしたり、名前を忘れたり、忘れたくないと思ったり。
忘れていくものばかりの世界で。
いつの間にか互いだけが特別になっていた二人の、恋人になる前と、そのあとの日々を綴る連作短編。
※成人男性同士。各話によって時系列・関係性が前後します。