あらすじ
「配達人風情が、聖女の婚約者気取りとは笑わせる」
王城の虹橋落成式典。三百余名の貴族の前で、王太子はそう言い放ちました。わたくしイリヤ・アルディス、十七歳。虹の郵便局第七配達人。婚約者を名乗った覚えなど一度もございませんが、噂ごと切り捨てるのが体裁がよいとご判断なさったのでしょう。実に合理的でいらっしゃいます。
「だって、虹はわたしの祈りで架かるのだから。郵便なんて古い仕事は要らないでしょう?」
新任聖女はそう微笑みました。――ええ、わたくしは記章をお返しいたします。ですが、ひとつだけ申し上げておきますね。
虹は、祈りで架かるのではございません。届けるべき手紙を持った者が歩いたときにだけ、架かるのです。
わたくしが記章を外したその瞬間、七色の橋は端から静かに解けはじめました。三分四十秒。記録いたしました。
前世は日本の郵便局の内務係。誤区分、宛先不明、転送期限切れ――行き場をなくした紙束を十年扱い、三百枚の年賀状を抱えたまま仮眠室で息を引き取った人間です。転生特典は〈配達記録〉。そして地下三階の廃棄郵便室には、三十年分・三百十二通の未配達書簡が、わたくしの台帳とともに眠っております。
捨てろとは言われておりません。ですからどうぞ、そのままお続けくださいませ。
解雇された配達人が、一通ずつ手紙を届け直す。それだけの物語。けれど届かなかった言葉が届いたとき、空には必ず虹が架かるのです。
地味な鍵番、竜人国の堅物な閣下、そして「遅れずに届いた一通」。仕事を愛した人間の、静かな逆転譚。