あらすじ
江戸中期。
長屋に暮らす貧しい娘、お凛は六十七歳でその生涯を終えた。
幼い頃に父を失い、母を失い、兄妹とも次々と別れ、苦労の末に商家の女主人として成功を収めた人生だった。だが死の間際まで、彼女の胸から消えない後悔があった。
もっと早く気づいていれば、家族を救えたのではないか。
もっと力があれば、大切な人たちを守れたのではないか。
そして何より、無実の罪を着せられ命を落とした一人の青年、九条新之助を救えたのではないか。
その願いが天に届いたのか、お凛は目を覚ます。
五歳の春の日だった。
目の前には若い母のお梅がいる。
兄も姉も妹たちも生きている。
失ったはずの家族が皆そろっていた。
しかし喜びも束の間、お凛は知っている。この幸せが長くは続かないことを。
父は事故で倒れ、母は病に蝕まれ、姉は不幸な奉公先へ送られ、兄は人に騙され命を落とす。妹たちにも過酷な運命が待っている。
さらに、武家の名門・九条家には、一人の孤独な少年がいる。
庶子として生まれた九条新之助。
側女である母とともに嫡母や異母兄たちから虐げられながら育つ彼は、山中で出会った隻眼の老人に密かに武術を学び、自らの力で生きる道を模索していた。
前世で彼の最期を見届けたお凛は知っている。
今の新之助はまだ幼い。
だがこのままでは、二十年後に陰謀によって命を奪われる。
未来を知るお凛は決意する。
今度こそ家族を守る。
今度こそ新之助を救う。
だが、人生は前世と同じようには進まなかった。
変えたはずの運命が思わぬ形で動き出し、過去の知識だけでは越えられない試練が次々と襲いかかる。
貧しい長屋の少女と、名門旗本の庶子。
決して交わるはずのない二人は、幼い日から少しずつ信頼を育みながら、それぞれ理不尽な運命に立ち向かっていく。
これは、人生をもう一度与えられた一人の女性が、失った家族と愛する人たちを守るために歩む、長い再生の物語。
後悔から始まる二度目の人生で、お凛は本当の幸せを見つけることができるのか。
そして運命に翻弄された新之助を、今度こそ救うことができるのか。
梅の花が再び咲く頃、二人の人生と幾多の縁が大きく動き始める。