あらすじ

「歌うしか能のない補助職に、分け前を六分の一も払う理由がない」 大迷宮六十階到達を祝う王都ギルドの大広間で、王太子アルベールは杯を掲げたままそう告げました。聖女ミレーユも「わたし、一人でも回復は足りますもの」と微笑みます。数百人の冒険者が嘲笑する中、歌姫セレナは深々と頭を下げ、除名同意書に震えぬ手で署名しました。 ——ただし、ギルド規約第十二条に基づく「記録の突合」を一度だけ請求して。 前世は音大声楽科を出ながらブラック企業の総務・経理に就き、残業記録と備品台帳をつけ続けたまま机で息絶えた女。記録をつける癖は魂ごとこの世界へ持ち越されました。毒沼の底でも手放さなかった、油紙を三重に巻いた革表紙の手帳。そこには三年二ヶ月分の日付、地点、詠唱開始時刻、終了時刻、対象人数が、一行も欠けずに記されています。 遠征三百十二日。【共鳴詠唱】発動回数、四千七百二回。 対する聖女の公式記録は——。 鉄灰色の髪の記録課主任書記官ドロテアは言いました。「わたくしは判断いたしません。数字が判断いたします」 断罪はいたしません。ただ、帳簿を開くだけ。ですからどうぞ、そのまま素手で竜に挑んでくださいませ。 やがてセレナがたどり着いたのは、新緑の谷。効果は遅く、歌をやめれば即座に切れ、自分自身には何も効かない——そんな歌を、彼女は命令ではなく依頼として受け取り、今度は自分のために歌います。 帳簿と羽根ペンと、木苺のジャム。静かな溜飲と、ささやかな再出発の物語。

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小説を読もう2026/10/01
  • 現在の作品「歌うしか能のない補助職は不要だ」と聖女パーティーを追放されましたが、わたくしの歌は三年二ヶ月で四千七百回、皆様の傷を塞いでおりましたので、どうぞそのまま素手で竜に挑んでくださいませ 〜新緑の谷で、わ