あらすじ
現代の東京。高校二年生の月島澪には、幼いころから誰にも見えない「透明な魔物」が見えていた。周囲に信じてもらえなかった経験から、その存在を無視して暮らしてきた澪だったが、東京国際美術館で世界各地の浮世絵の傑作を集めた大展覧会が開催される朝、上野で透明な魔物が葛飾北斎の大波を絵から奪い取る瞬間を目撃する。亡き祖母・千鶴から受け継いだ根付が一本の筆へ変わり、澪が空中に描いたものが現実となった。澪は「浮世絵戦姫」として覚醒し、魔物から大波を取り戻す。
やがて澪は、古いカメラを通して魔物を見ることができる高校生・神谷蓮と出会う。二人が調査すると、大展覧会には「封魔十五図」と呼ばれる十五枚の特別な浮世絵が集められようとしていることが判明する。それらは江戸時代、魔物を封じるために作られ、世界各地へ散逸していた。十五枚が東京にそろえば封印が反転し、東京そのものが一枚の浮世絵へ変えられてしまうという。
魔物たちを率いるのは「透明王」無形院玄馬。彼は、人間と魔物はかつて江戸で共存していたが、人間が魔物を裏切り、浮世絵へ封じ込めたと澪に告げる。そして十五枚目の《月下透明美人図》には、澪と同じ顔をした少女が描かれていた。その少女こそ二百年前の最初の浮世絵戦姫であり、現在の澪はその魂を受け継いだ存在だった。
十五図がそろうと東京各地で現実の変質が始まる。浅草は江戸の町へ変わり、日本橋には巨大な橋龍が出現する。しかし澪は魔物を倒すのではなく、人間と魔物の双方が存在できる道を選ぶ。浅草では二つの世界をつなぐ道を描き、日本橋では江戸時代の橋を現代へ転写することで、魔物の居場所を作り出す。澪は、人間か魔物のどちらかを追い出すのではなく、共存する第三の道を探し始める。
そんな澪の前に、死んだと聞かされていた祖父・月島清玄が現れる。清玄は祖母・千鶴の夫であり、かつて彼女とともに戦っていた。しかし戦姫たちが命を削って戦い続ける歴史に絶望し、人間と魔物をともに絵の中へ封じれば、争いも死もない永遠の世界を作れると考えるようになっていた。大展覧会そのものも、清玄が十五図を東京へ集めるために仕組んだ計画だったのである。
玄馬は魔物の東京を取り戻そうとし、清玄は人間も魔物も《世界終焉図》へ閉じ込めようとする。澪はどちらの考えも拒否する。「争わない」のではなく、自由に選べなくなるだけだと訴え、玄馬とも一時的に手を組む。だが清玄は自らを《世界終焉図》の最後の色として捧げ、現実世界を絵へ変える儀式を発動。東京から世界へと黒い墨が広がり始める。
澪は蓮の写真や魔物たちの記憶を利用し、消されようとする現実を描き戻す。そして絵の中で清玄と対峙し、亡き千鶴の思いにも触れる。清玄は、自分が妻を失った悲しみから世界そのものを止めようとしていたことを悟り、ついに澪へ未来を託す。
ところが十五図の封印が壊れたことで、人間と魔物双方の憎しみから生まれた巨大な災厄「大江戸大魔」が復活する。澪たちは十五図を本来の形へ並べ直し、それが魔物を排除するための絵ではなく、人間と魔物がともに暮らす姿を描いた《東都人魔共生図》だったことを知る。澪は消されていた魔物たちの姿を絵へ戻し、大江戸大魔を再び退ける。
しかし大江戸大魔の一部は澪の体内へ侵入する。澪はそれさえ単純に消そうとはせず、憎しみを小さな壺へ移し、「なくす」のではなく抱えながら生きる道を選ぶ。そして初代戦姫から「誰か一人が世界を守る時代を終わらせて」と告げられ、戦姫の筆を手放す。
一か月後、浮世絵大展覧会は再開される。東京では人間と魔物が少しずつ同じ街で暮らし始め、当然のように衝突や問題も起きている。それでも澪は、完璧な世界より、間違えたら何度でも描き直せる自由な現実を選ぶ。戦姫ではなく普通の十七歳へ戻った澪は、三年間やめていた絵を再び描き始める。人間と魔物が同じ空を見上げる、まだ完成していない「今日の東京」を。