あらすじ
**「世界を救った英雄が、次に手にしたのは――小さな木切れだった」**
魔王を倒し、剣を置いた。
国からは十分な褒賞ももらった。
もう誰かに命を狙われる夜もない。
――そして元勇者アルトは、途方もなく暇になった。
ある日、持て余した時間の中で削り出したのは、手のひらサイズの「コマ」。
「何それ?」
「回すもの」
「面白いの?」
「……さあ?」
首を傾げていた子供たちが夢中になり、大人や職人までが本気で競い始める。
もっと長く回したい。
ぶつけて勝負したい。
色を塗りたい。
自分だけの形にしたい。
遊び方は勝手に増え、遠い土地の遊びまで持ち込まれ――
いつしかアルトの家は、誰が呼んだか『遊戯堂』になっていた。
けれど、平和になったように見える世界には、まだ戦争の傷が残っている。
かつて敵だった者。
戦争で家族を失った者。
違う言葉を話す子供。
同じ遊びなのに、まるで違う決まりで遊ぶ町。
遊んだからといって、許せるわけじゃない。
分かり合えるわけでもない。
それでも。
同じコマを回すことならできる。
一本の縄の、反対側を持つことならできる。
決まりが違うなら、両方試してみればいい。
もう世界を救うつもりなんてない。
ただ今日も元勇者は、木を削る。
次に誰かが遊ぶものを。