あらすじ
大学生・伊東朔は、遅刻寸前の朝、駅前で奇妙な光景に遭遇する。
「帰らなきゃ」
会社員も、高校生も、老人も。同じ言葉を繰り返しながら、赤信号の車道へ歩き出していく。
そしてビルの屋上には、白い服の女が立っていた。
――帰りなさい。あなたのいるべき場所へ。
恐怖に呑まれかけながら、朔はただ一つ問い返す。
「どこに?」
その瞬間、異常は止まった。
一年前にも地下鉄の集団幻覚事件に居合わせていた朔は、県警の御厨美冬らから、精神への干渉に強い人間ではないかと見なされる。
だが、朔が怪異と向き合うたび、何かが少しずつ変わっていく。
白い女は言葉を覚え、やがて「わたし」と口にし始める。
朔は本当に、怪異に耐えているだけなのか。
人々の「帰りたい」に応えるように現れる白い女と、問わずにはいられない青年。
帰る場所とは何か。
自分とは何か。
そして、人は誰かに与えられた答えなしに、自分自身を選ぶことができるのか。
日常のすぐ隣で、認識と現実の境界が少しずつ崩れていく。
これは、怪異を倒す物語ではない。
怪異と人間が互いを問い直し、やがて「一人」になっていく物語。