あらすじ
誰にも救われなかった感情は、放置されれば腐り、やがて災害になる。人の心の残骸が怪異と化したもの――泣き声は刃に、後悔は毒に、孤独は街を沈める。
内閣府直属、通称・特奇。そこに集められたのは、怪物になりかけた者たちだった。
屋敷を焼かれ、家族を奪われ、空間そのものを「自分の家」として支配する座敷わらし――ザシキ。祈りと銃で魂を撃ち抜く、元神父の処刑人。死者の声を、番号ではなく名前で数え続ける人造人間。触れたいのに、望むほど何もかもを凍らせてしまう雪女の少女。
彼らは首輪をつけている。人間の側へ帰ってくることを、たった一つの条件にして。
命を救う顔で臓器を作り、命を奪う顔で怪物を売る――ひとつの狐が使い分ける、三つの顔。人間の弱さを「治してあげる」と嘯く組織が、死者すら商品に変えていた。九本の尾を持つ、その組織を相手に、怪物たちの家宅捜索がはじまる。
「泣いてる声を、鎧に貼りつけただけのクズだ」
ザシキは静かに笑う。怒りを長く煮詰めた者だけが浮かべる、獣の笑みで。
弱さは、欠陥なのか。痛みは、消すべき病なのか。人間を守るために、どこまで人間を捨てていいのか。国家の命を受けた怪物たちが、救われなかった夜を、一つずつ照らしていく。