あらすじ
「浮遊港の運行管理など、誰にでもできる雑務だろう」
始発便の出港三十分前。管制塔の石段で、王太子は婚約破棄を告げました。傍らには《風の乙女の加護》を授かったという令嬢。
——ええ、承知いたしました。わたくし、始発前の三十分に感情を割ける人間ではないのです。
レイフェルト伯爵令嬢セレスティアは、十二年間この浮遊港の運行管理官を務めてきました。定時運航率九十八パーセント、年間発着三千二百十便、遅延十七件、事故ゼロ。風脈の振れを一度単位で読み、積載を割り振り、詫び状に自分の名を書く。前世は空港でダイヤを組み、誰にも気づかれずに過労で倒れた社畜でした。
「押印くらいはしていけ」と言い捨てた殿下は、ご存じないのです。始発便が出ない日というものが、どういう日なのかを。
風脈さえ読めれば船は飛ぶ——そう信じる人々が知らない、鐘の音、積載表、詫び状、そして出港許可印。誰にでもできる雑務の総量が、明らかになっていきます。
かしこまりました。それくらいは、いたします。
——本日をもって、退職いたしますけれど。
気づかれないのがいい仕事だと信じてきた彼女が、初めて自分の手を差し出されるまでの物語。ざまぁと、お仕事と、夜明けの空。