あらすじ
売れ数は、一度見たら忘れない。お客さんの顔は、ほとんど覚えられない。
大手雑貨チェーンの新人・松尾葵は、数字で「正しく」選ぶことで売場を変えてきた。
けれど、三十七回手に取られて一本も売れなかった木のバターナイフの理由だけは、どの表にも出てこない。
ソウル郊外の小さな工房で出会った、職人が一本ずつ叩いて作る真鍮のスプーン。
「これを売りたい」と初めて思った企画は、正しいのに通らなかった。
会社を辞め、地元・福岡でひとり商社をはじめた葵を待っていたのは、輸入の書類、断られ続ける営業、円安、そしてポイント10倍の量産品。
正しい判断だけでは、良いものは人に届かない。
数字しか信じてこなかった元バイヤーが、自分の言葉で「届ける」ことを覚えるまでの、ひとり商売の物語。