あらすじ
毎朝五時七分。
高校二年の柴田朔は、学校の裏門を通る。
そこで必ず聞こえてくるのが、弓道場から響く一発の音だった。
パン。
そして少し遅れて――ザッ。
的を外した矢が、砂に刺さる音。
射っているのは、日高澄。
去年の県大会で、的に刺さった矢を次の矢で縦に割った少女。
新聞に「現代のロビンフッド」と書かれ、学校中の憧れになった弓道部のエース。
そんな彼女が、誰もいない朝の道場で三か月間、一度もまともに矢を当てられていない。
その秘密を知っているのは、新聞配達をしている朔だけだった。
「今の、外れたけど……音は好きだった」
ある朝、思わず口にした言葉をきっかけに、二人の秘密の朝が始まる。
「じゃあ明日から、感想ちょうだい」
「何の?」
「パンか、ピンか。どっちだったか」
壊れた自転車のブレーキ。
誰にも言えない失敗。
忘れられない一本の矢。
そして、まだ名前のついていない恋。
これは、誰にも見られない場所で、もう一度自分の矢を射る少女と、その音を毎朝聞いていた少年の青春物語。