あらすじ
『神様は、明日を知らない』
世界のすべてを知り、あらゆるものを思い通りにできる、全知全能の神・アポロン。
彼にとって、人間の感情も、争いも、愛も、悲しみも、すべては理解できる「現象」に過ぎなかった。
けれどある日、アポロンは一つの疑問を抱く。
――人間として生きるとは、いったいどんなものなのだろう。
神として何もかも知っているからこそ、彼には「分からない」という経験がなかった。空腹も、寒さも、疲労も、誰かを待つ時間も、明日を知らない不安も。
そしてアポロンは、自ら神の座を離れ、人間として生きることを選ぶ。
街を歩き、働き、人と出会い、食事をし、笑い、傷つき、誰かを大切にする。
その日々の中で、彼は初めて気づいていく。
人間は弱い。愚かでもある。けれど、だからこそ一瞬一瞬を大切にして生きている。
しかし、神が人間になったことで、世界の秩序は少しずつ崩れ始めていた。
アポロンの願いを叶えたのは、彼を最も忠実に慕う神の従者だった。
世界を救うため、従者と人々は一度人間となったアポロンを、再び神へと戻そうとする。
そして神となったアポロンは、最後に一つの決断をする。
自らの力をすべて世界へ還すこと。
それは、神として世界を支配するためではない。
かつて人間として生きた彼が、大切に思うようになった人々を救い、彼ら自身の未来を返すためだった。
全知全能だった神は、最後にすべてを手放す。
そして世界から、神は消える。
残された人々が生きていく世界には、もう神の声は届かない。
ただ一つだけ。
神は、人間になったことで初めて知った。
――明日が分からないからこそ、人は明日を楽しみにできるのだと。