あらすじ
「笛吹き女など誰でも代われる。順番通りに吹けばいいだけだろう」
花笛祭の三日前。婚約者である風司祭長の嫡男アルヴィン様は、そう言ってわたくしから主笛役を取り上げ、【美音】のギフトを持つ男爵令嬢ミレーヌ様を据えました。
構いません。わたくしは喚きません。怒鳴ったところで、風は渡りませんもの。
セリア・ノスフィール、十九歳。前世は現代日本の気象観測所職員。十年間、毎日同じ時刻に風向・風速・気温・湿度を記録し続けた、誰にも褒められない仕事人でした。そして今世でも十二年間、毎朝四時半に丘へ登り続けております。
ギフトは【風の記録】。未来は読めません。できるのは過去との照合だけ。つまりわたくしは予言者ではなく、ただの人間気象台。
ですが──帳面は嘘をつきません。
三十七年分の風の順路は、すべてわたくしの頭の中。第十四笛座の吹き送りを何刻に入れるのか、答えられなかったあなた方に、この祭が務まりますでしょうか。
すでに署名済みの辞任届を差し出し、受理の印をいただきました。それは同時に、祭の三日前に主笛を替えたという「証拠」でもあるのですが。
どうぞ、ご自由にお吹きくださいませ。
静かに、淡々と、記録だけを積み上げる令嬢の逆転劇。そして麓で三年間、同じ場所で彼女を待ち続けていた花粉症の辺境伯のお話です。