あらすじ
「橋守などという、ただ祈るだけの雑用係を、王妃には据えられん」
建国祭の夜会。王太子ジェラルドは、聖女ミレーユの聖光があれば七本すべての橋を一度に架けられると告げ、公爵令嬢リディア・ヴァン・クレストとの婚約を破棄した。
泣きも縋りもせず、リディアが求めたのはただ一つ――「解任は、書面で頂戴できますか」
彼女には前世の記憶があった。霧島千鶴、橋梁点検技師。台風の夜、吊橋の主塔から落ちて死んだ女。だからこそ知っている。口頭の指示は必ず消えること。落ちていないのではなく、誰かが毎日触って、落ちる前に直していただけだということを。
十二歳から七年間、毎日三度。祖母の代から三十七年分、点検回数一万三千五百四十八回。支索一本ごとに音の濁りを五段階で記した七冊の点検帳を、彼女は荷車に積んで大広間へ運び込む。
「そんな紙束、いらん」
「過去の記録が何になる? 我々は未来を作るのだ」
――承知いたしました。では、三十七年分の点検記録ごと、辞めさせていただきます。
雲海に浮かぶ七つの浮島を繋ぐ、白鶴の橋。祈りで架かると信じられているそれは、本当は何で支えられていたのか。記録を失った王国が、それを知るまであと幾日。
そして、彼女の仕事を一度も「雑用」と呼ばなかった竜人の将軍が、白銀の翼を広げる。
「翼だけでは、何も救えない」
これは、誰にも見られない場所で手を汚し続けた女が、三十七年分の帳面とともに正当に評価される物語。
地味で堅実な点検技師令嬢×寡黙な竜人将軍。ざまぁと、お仕事と、少しの恋を。