あらすじ
「金の話と心の話は別だろう」
三百人の前で婚約を破棄された公爵令嬢アドリアは、泣かなかった。
クレダン家は三代にわたる王室の貸主である。王家の借入残高、金貨四十八万枚──王国の年間税収一・七年分。
そして十二年前、二人の婚約に際して結ばれた特約には、こう書かれていた。
──婚約が解消された場合、減免は当初からなかったものとする。各年の利息は、それぞれその年の支払期日に発生していたものとして扱う。
「承知いたしました。──ところで殿下、婚姻猶予条項についてはいかがなさいますか」
アドリアは怒らない。脅さない。泣かない。
ただ帳簿を開き、条項を読み上げ、返済計画書に署名を求める。
「わたくしは復讐をいたしません。契約通りにいたします」
魔法は使わない。使うのは三通の契約書と、王国商法だけ。
王国が傾いていくのは、彼女が悪女だからではなく、王太子が算数を知らなかったからだった。
そして彼女の帳簿を唯一読めた男は、隣国から来た監査官だった。
彼は彼女の容姿を褒めない。仕事を褒める。
これは、一枚も帳簿を汚さずに、借りたものを返させる令嬢の物語。