あらすじ
町はずれの古い家に、名もない男がひっそりと暮らしていました。貧しい生活でしたが、困っている人を見ると、自分の食べ物や靴、薪まで分け与えてしまう優しい人でした。ところがある日から、誰かに親切にするたび、男の影が少しずつ薄くなっていることに気づきます。時計屋の老人によれば、影を失った者は、やがて人々の記憶からも消えてしまうというのです。それでも男は、雪の中で倒れていた少年トオルを助け、二人で暮らし始めます。トオルとの日々は男に初めて「ただいま」と言える場所を与えました。しかし、その幸せと引き換えるように、男の影は消え、町の人々は男を忘れ、ついにはトオルさえ男の名前や顔を思い出せなくなります。やがて男自身も姿を失います。それでもトオルの心には、男から受け取った優しさだけが残りました。成長したトオルは、かつて男が助けた少女ミナと出会い、男が残した小さな親切の数々を知ります。二人はその優しさを次の人へ渡していきます。名前も顔も影も消えた男でしたが、その心は人から人へ受け継がれ、決して消えることはありませんでした。