あらすじ
**最期の一言を届ける。それが、残された人の望みとは限らない。**
海沿いの小さな町・臥雲町で便利屋を営む榊透には、少し変わった仕事がある。
死にゆく人から最期の一言を預かり、その言葉を本当の宛先へ届ける「預かり屋」だ。
届ける期限は七日間。宛先と対面すれば、預かった言葉は透の意思とは関係なく口をついて出る。届け損ねた言葉は体の奥で腐り、代わりに透自身の言葉をひとつ奪っていく。
ある日、八十四歳の老人が透に託したのは、たった一言だった。
「マル。ええ子や」
しかし、その宛先は、十七年前の町内会報に載っていた一匹の犬だった。
亡くなった人が伝えたかったことと、残された人が聞きたいことは、いつも同じとは限らない。
母親へ息子の死を知らせたくない娘。十五年間、返されなかった鍵。海の向こうにいる、もう会えない女性。
草刈りや網戸の修理、溜まった請求書に追われながら、透は今日も誰かの言葉を届けに行く。
そして、町が十五年前の高潮について残した記録を調べるうちに、祖父の帳面にある二か月の空白と、透自身が忘れていた夜が少しずつ繋がり始める。
これは、言えなかった一言と、それを受け取った人々の物語。