あらすじ
夜勤、人手不足、鳴り続けるコール、記録、委員会、事故対応――。
介護福祉士として働いていた二十七歳の青年・ユウは、仕事そのものが嫌いだったわけではない。
誰かのできないことをすべて代わりにやるのではなく、その人に残された力を活かしながら、必要なところだけ手伝う。
そんな仕事には、確かなやりがいを感じていた。
けれど、人を支えるために自分を削り続ける毎日には、もう疲れてしまった。
そんなユウが異世界へ転移して手に入れたのは、十冊の魔導書を扱える規格外の能力《魔導書庫》。
その力を知った者たちは、彼に大きな可能性を見出す。
けれど、ユウが望んだのは英雄になることでも、偉くなることでもなかった。
――もう、頑張り続けるのはやめよう。
そう決めたユウが選んだのは、老人の多い辺境の小さな村。
畑を耕し、壊れたものを直し、風呂を沸かす。
困っている人がいれば、できる範囲で手を貸す。
でも、全部は背負わない。
疲れたら休む。
何もしたくない日は、何もしない。
そんな穏やかな暮らしの中で、ユウは少しずつ「誰かの役に立ち続けなくても、ここにいていい」という感覚を取り戻していく。
そしてある日。
そんな辺境へ、一人の少女が追放されてくる。
彼女は十九歳の公爵令嬢。
身に覚えのない罪によって婚約を失い、立場を失い、それまで生きてきた場所からも追われた少女は、自分にはもう何も残っていないと思っていた。
そんな彼女と出会っても、ユウは失ったものを取り戻せとは言わない。
立ち直れとも、前を向けとも言わない。
ただ、疲れているなら休めばいいと言う。
畑仕事をして、ご飯を食べて。
村人たちに振り回され、ときには魔法を使って。
何もしたくない日は、本当に何もしない。
そうして過ごす何気ない毎日の中で、二人の時間は少しずつ重なっていく。
頑張り続けなければ価値がないと思っていた元介護福祉士と、
誰かと比べながら、自分には足りないものばかりだと思っていた追放令嬢。
これは、そんな二人が何者にもならなくていい辺境の小さな村で出会い、自分で選んだ人生と居場所を少しずつ見つけていく物語。
追放されたからこそ、始められる人生もある。
今日くらいは頑張らなくてもいい。
明日のことは、明日になってから考えればいいのだから。