あらすじ
老舗刺繍工房で働くノエミは、工房主の娘アニエスに、自分が刺した品を「私が刺した作品」として売られていた。
腹は立つ。
けれど、客を取ってくるのはアニエスだ。
仕事を失うのが怖くて、ノエミはずっと黙っていた。
そんなある日、婚礼を控えたルシールが、亡き母の花嫁ヴェールを持ち込む。
彼女の願いは一つ。
「母が自分で刺した、この不格好な一輪だけは残してください」
修復ならできる。
ノエミはそう言い切った。
だが、見栄えを何より重んじるアニエスは、その一輪を「残す価値がない」と切り捨て、ついには鋏を伸ばす。
自分の仕事を奪われても耐えてきたノエミだったが――。
「触らないで!」
他人が残した大切な一針まで、なかったことにはさせない。
これは、自分の名前を口にできなかった刺繍職人が、
初めて自分の仕事を自分の名前で引き受けるまでの話。