あらすじ
2026年9月。岩手県葛巻町の山あいで、住宅設備会社の営業マン・高橋直人(43)は、奇妙な霧に包まれる。
霧が晴れた先は、貞享4年――江戸時代の八戸藩領、小田村。
そこで直人が目撃したのは、筵に隠して運ばれる「鉄五駄」と、それを差し押さえる村の男・市右衛門だった。
なぜ鉄を隠して運ぶのか。
鉄はどこから来て、どこへ行くはずだったのか。
そして、なぜこの道を通ったのか。
霧は、直人を2つの時代のあいだで往復させる。
向こうで何日過ごしても、現代ではほんの数分。
直人は現代に戻るたびに古文書を調べ、答えの欠片を持って、また江戸の冬へ戻る。
だが、調べるほどに分かってくる。
未来を知っていることは、江戸では疑いの理由にしかならないこと。
そして、藩の日記の行間に書き足された1行――
「此外、見馴レヌ者一人有之由」
実在する古文書に数行だけ残された「鉄五駄差押え事件」を題材に、史料の空白へ迷い込んだ現代人を描く、歴史タイムスリップ・ミステリー。
※本作は、八戸藩の記録に残る「小田村市右衛門による鉄五駄差押え」の記事に着想を得たフィクションです。作中に引用される史料の文言・記事には、実在の記録を下敷きにしたものと、物語のために創作したものが含まれます。