あらすじ
北の寒村ヘルダで、羊を追い、家族と冬支度をしながら暮らす十七歳の少年アルネ・シグルソン。
精霊が人々の暮らしのすぐそばにいるこの世界で、アルネにとって彼らは魔法を使うための道具ではなかった。山へ入れば声を掛け、川の水を借りれば礼を言う。そんな村では当たり前の暮らしを、彼もまた当たり前に続けていた。
だがある冬、羊たちが何もないはずの斜面を避け始める。
やがて川の流れが乱れ、山の獣たちが住処を離れ、ヘルダでは説明のつかない異変が少しずつ増えていく。
その先でアルネが出会ったのは、既存のどの精霊とも違う、小さな一匹の精霊だった。
村だけの問題だったはずの異変は、王都へ、国境へ、帝国へ、そして人の知らなかった世界の仕組みへと繋がっていく。
王侯、学者、兵士、商人、聖職者、エルフ、ドワーフ、獣人――それぞれの正しさがぶつかる中、アルネには世界を救う力も、特別な血筋もない。
ただ、人と精霊、国と国、立場の違う者たちの声を聞くことだけはできた。
これは英雄になりたかった少年の物語ではない。
羊飼いの少年が、小さな違和感を追った先で、世界の境界そのものと向き合うことになる物語。