あらすじ
パランプセスト、一度書いた文字を削り、その上から新しく書き直した羊皮紙のこと。だが、消したはずの古い文字は、下からうっすらと滲みつづける。――何度上書きしても、消せないものがある。これは、そういう物語。
「時間を巻き戻せる。ただし、使うたびに、いちばん大切な記憶を、一つ失う」――そんな“仕様”のシステムを、二十四歳のシステムエンジニアが、ある日、引き継いでしまったら。
伊勢崎天雅が、倒れた父の書斎で見つけたのは、四十年前のパソコンと、そこから現れた一人の少女だった。少女・かのんは、時間を書きかえるシステム「ChronoOS」の生体鍵。そして父は、彼女をたった一人救うために、未来から一九八二年へ飛び、正体を隠して四十四年を生き抜いた男だった。
父が遺したのは、暗号のようなコードで埋め尽くされたノートと、未完成の“最後の一行”。天雅は、追手の財団から逃げながら、エンジニアの全知識を注いで、その一行を組み上げていく。こじれた障害を切り分けるように。バグを、一つずつ、潰すように。
だが、システムを動かすたび、天雅は記憶を、かのんは存在を、少しずつ削られていく。助けたい相手を助けるほど、その相手を、忘れていく。――これが、この物語のたった一つの、残酷な“縛り”です。
かのんもまた、静かに願っていた。四十四年、光のない場所で、たった一人。それでも、あきらめきれなかった。もう一度だけ、誰かの隣で、あたたかいご飯を食べたい――ただ、それだけを。
派手な戦闘は、ありません。天雅の武器は、父が遺したコードと、自分の頭脳と、それでも消えなかった想いだけ。論理で不条理に挑む男が、最後にどんな一行を打ち込むのか。どうか、その結末まで、見届けてやってください。