あらすじ
―あなたが迎えられなかった35歳を、私は25年生きてきた。
私は、一軒の花屋に立ち寄った。
目的はただ一つ。親友の60歳の誕生日を祝うため。
黄色いガーベラと紫のアスターを抱え、思い出すのは25年前のこと。
世界貿易センターで働いていた私たちは、互いの誕生日をニューヨークの夜景を望むレストランで祝うほど親しい友人だった。
仕事のこと。恋のこと。
そして、10歳になる彼女の息子のこと。
「9月のあなたの誕生日も、またここで祝おう」
そう約束した。
2001年9月11日。
北棟への航空機衝突後、避難した私たちは「南棟は安全」と告げる館内放送を聞いた。
私は逃げた。
彼女は仕事へ戻った。
そして、私たちが再び会うことはなかった。
あれから25年。
彼女の息子は母親の年齢を追い越し、35歳になった。
結婚式には、あの日の何気ない冗談だったレゴブロックまで飾られていた。
彼女が見ることのできなかった未来を、私はずっと見届けてきた。
そして私は、今も問い続けている。
――どうして、あなたではなく私だったのだろう。
これは、あの日を生き残った一人の女性が、亡き親友へ贈る、25年越しの誕生日の物語。