あらすじ
「あんたなんか、産まなきゃよかった」 母にそう言われ続け、それでも介護を続けた二十八年。最期、母は私の顔を見て「どちら様?」と言った。
目を覚ますと、私は異世界で「器様」と呼ばれていた。 死者の未練を身に引き受け、やがて溶けて消える生贄の巫女。名前は、就任と同時に奪われる。
私の世話係は、氷のように冷たい女神官エルザ。 彼女だけは、神殿の最奥の間に決して近づかなかった。 ――二十四年前、そこで消えた先代の器が、彼女の母だったから。
これは、名前を持たない二人の女が、たった一つの言葉に辿り着くまでの物語。