あらすじ
ネオンの灯りが、夜の街を淡く照らす。
人々が行き交う大通りを外れた、その片隅。
今日もどこかで、ひとりの客が静かなバーの扉を開く。
仕事の悩み。
恋愛の迷い。
誰にも打ち明けられなかった秘密。
客たちは一杯のカクテルを前に、カウンター越しに何気ない言葉を交わし、少しずつ胸の内を語り始めます。
グラスが空に近づくにつれて、何気なく口にした言葉の意味は少しずつ形を変えていく。
偶然に見えた出来事。
優しさから生まれたはずの行動。
純粋だったはずの誰かへの想い。
それらが静かに混ざり合ったとき、思いもよらない真実が姿を現します。
『SHAKER & STIRRER』は、実在するカクテルを題材にした、一話完結型の現代ミステリー短編集です。
一つの物語を、
「First Sip」(一口目)
「Second Sip」(二口目)
「Last Sip」(最後の一口)
の全三話でお届けします。
一話ごとの時間は短くても、一杯を飲み終えたあとに、苦味や余韻が残る。
そんな物語を目指しています。
登場するカクテルは、すべて物語を彩る大切な存在です。
名前に込められた意味。
グラスの中に広がる色。
口に含んだときの甘さや苦さ。
混ぜ合わせる酒や果実の組み合わせ。
それらは、その夜バーを訪れた客の感情や、これから迎える運命と静かに重なっています。
最初は美しく見えた一杯が、真実を知ったあとでは、まったく違うものに見えるかもしれません。
タイトルの『SHAKER & STIRRER』は、カクテルを作るためのシェーカーと、混ぜ合わせるための道具であるスターラーから名づけました。
激しく振ることで、異なる材料を一つにするシェーカー。
静かにかき混ぜながら、味をなじませていくスターラー。
この物語でも、バーを訪れた人々の心や運命が、ときに激しく揺さぶられ、ときに気づかぬうちにかき混ぜられていきます。
好意と嫉妬。
善意と独善。
偶然と企み。
純粋な願いと、歪んだ執着。
混ざり合った感情の境界は、ひと目見ただけでは分かりません。
甘い一杯のあとに残るのは、優しい余韻か。
それとも、背筋を冷たくする真実か。
一杯のカクテルから始まる、少し不思議で、少し怖い現代ミステリー。
どうぞ最後の一口まで、ゆっくりとお楽しみください。