あらすじ
人付き合いを避け、皮肉と屁理屈で日々をやり過ごす大学二年の穂摘奏。友人と呼べる相手もいない彼に、学内一の人気者・朝比奈真由だけは、なぜか構い続けていた。明るくて、よく食べて、誰にでも話しかける彼女が、どうして自分なんかに――奏には、それがずっとわからなかった。
五月のある日、彼女は奏と会う約束を強引に取りつける。けれど約束の時刻、彼女は現れなかった。同じ頃、大学の外階段から転落して、彼女は命を落としていた。
駅へ向かうはずだった彼女が、なぜ反対側にいたのか。彼女は奏に、何を相談しようとしていたのか。彼女の親友に詰め寄られ、奏は気の進まないまま、残された断片を拾い集めはじめる。
遺された手帳の、意味のつかめない走り書き。誰に聞いても同じ温度で語られる、ある同級生の評判。かつて彼のせいで大切なものを失ったはずの人間までが、彼を少しも悪く言わない。そして奏自身も、確かに抱いていたはずの疑いが、その同級生の前に立つと消えてしまうことに気づく。離れれば、違和感だけが戻ってくるというのに。
気のせいか、思い込みか、それとも――。昔なじみの奇妙な女が口にしたのは、奏がいちばん嫌う種類の言葉だった。
やがて事件は、彼女の親友にまで及ぶ。自分の判断すら信用できなくなった奏は、推理を突きつけるのでも、見抜いてみせるのでもない、ひとつの方法で真相に向き合うことを決める。その方法は、誰かを利用せずには成り立たないものだった。それは、他人を一行で片づけてきた自分自身と向き合うことでもあった。
「可哀想な子」「感じのいい人」「変わり者」。人に貼られるラベルは、理解の助けにもなり、人を閉じ込める檻にもなる。名前を付けることの功罪を描く、異色の大学ミステリ。