あらすじ
一つのクレームが、人生を変える。
大手化学メーカーを二年で辞めた理系女子・門脇理奈は、「時間」と「生活」を立て直すため、地元のめっき工場・株式会社協栄鍍金に転職する。実家から近く、残業も少ない。空調の効いた品質保証部で、分析とデータ管理に集中できる――はずだった。
だが現実は、薬品臭、粉塵、蒸気、曖昧な慣習、絶えないクレームが渦巻く、昭和の空気を色濃く残したモノづくりの職場だった。門脇が配属された品質保証部も、数字を見るだけでは済まされない、会社の信用を背負う部署だ。
そこで門脇が出会うのが、めっき職人・等々力硬耶。
防毒マスクに保護メガネ、ぶかぶかの作業着に身を包み、他人を寄せつけない小柄な女職人。
彼女は液のわずかな変化を読み取り、まるで液体と会話するように現場の異常を嗅ぎ分けていく。
「数字は嘘をつかない」と信じる門脇と、「めっきは生きている」と言い切る等々力。
相容れない二人は、工場で起きる不良やクレーム対応を通じて、少しずつ現場の奥へと踏み込んでいく。
やがて門脇は知る。
めっきはただ金属の表面を整える仕事ではない。素材がどんな過程を経てきたのか、人が何を見て何を見落としてきたのか、そのすべてが結果に現れる仕事なのだと。
めっきが剥がれるのは、そこに密着性がないからだ。それは人間関係や、自分を取り繕う生き方にも似ているのかもしれない。
身近な工業製品の裏側を支える、知られざるめっき工場を舞台に、理屈と感覚、分析と経験、建前と本音がぶつかり合う、お仕事×サイエンス×ヒューマンドラマ。
【登場人物】
・門脇理奈(かどわきりな)
大手化学メーカーを辞め、中途採用で協栄鍍金に入社した新人品質保証部員。同い年であり先輩の等々力に出会うことが大きな転機となるが、等々力の目分量で動く傍若無人ぶりと、誰に対してもふてぶてしい態度をとる姿から苦手意識がある。
・等々力硬耶(とどろきこうや)
協栄鍍金で働くめっき職人。めっき愛から液体と会話し、閃きと直感で動く天才肌。理論ではなく感覚。人付き合いは苦手。小さい。門脇とは同い年。工場内外であろうが全身防護服で闊歩する。
・津田(つだ)
門脇の先輩。品質保証部員の一人。たたき上げで知識は豊富。人懐っこい性格。空気が剣呑になるとそっと席を外してしまう癖がある。
・松鷹(まつたか)
門脇の上司。元は機械加工屋で、めっき業界に転職した際、品質保証部部長の席を与えられる。事なかれ主義で争いは好まない性格。
・神坂(かみさか)
大ベテランのおじいちゃん。愛煙家。
・朝倉るるか(あさくらるるか)
取引先であるM工業の、ゆるい見た目と口調のギャル風検査員。門脇と同い年。
※AI使用について
誤字・脱字の確認、めっき・化学知識の確認に使用。