あらすじ
篠原真帆が日本を離れてから、私はようやく御堂恭平に想いを伝えた。
あの日の恭平は少し酔っていて、大学の部室棟の外にある手すりにもたれていた。夜風にシャツの裾を揺らす彼の前で、私は汗ばんだ手を握りしめていた。また断られるつもりでいた。
けれど、恭平はしばらく私を見たあと、ふっと笑った。
「若いんだし、ちょっとくらい勢いで付き合ってみてもいいだろ」
私はその言葉を、十年間ずっと覚えていた。
そして真帆が帰ってきた。
友人たちとの集まりで、真帆がゲームに負けた。罰ゲームは、その場にいる異性の誰かとキスをすることだった。誰かが面白がって、結婚したときは何があっても澄花を優先すると言っていなかったか、と恭平をからかった。
恭平は真帆の肩を抱き、私が久しく見ていなかった顔で笑った。
「若いときの勢いで言ったことを、いつまでも本気にするなよ」
電話越しにその声を聞いた瞬間、十年前の夜を思い出した。
あのとき私を救ってくれた言葉を、恭平自身が軽く手放していく。
私は携帯を握ったまま、何も言えなかった。
もう私も、本気にしなくていいのかもしれない。