あらすじ
都立北棱高校二年、久我原律。絶対音感を持ちながら、かつてのコンクールでの一件でピアノを捨てた男。彼が部員として籍だけ置く「音響科学同好会」に、転校生・音無瀬琴子が現れる。
「私は、嘘が聞こえる。466ヘルツで鳴るの」
彼女は声帯の微振動を読む特異な聴覚の持ち主だった——そう本人は言う。律は信じない。音は物理であり、心は測れない。それが律の信条だった。
同じ日の昼休み、音楽教師・穂村が四階の音楽室から転落死した。室内は施錠。窓は内側から閉まっていた。警察は自殺と判断する。
だが琴子は、校内放送の訃報チャイムを聞いて言った。
「このチャイム、録音よ。——しかもこれ、穂村先生が死んだあとの時間に録音されている」
死んだはずの教師が、死後にチャイムを鳴らしたのか。密室のピアノには、死後に打鍵された痕跡のある鍵盤が一つだけあった。音が残した矛盾から、二人は学校という密室そのものの「嘘」を解体していく——。