あらすじ
東京都第二十四区・蕨。
人口五百十二万人を抱えるこの巨大都市は、江戸時代には中山道の小さな宿場町だった。
では、なぜ蕨はここまで大きくなったのか。
きっかけは明治四年。
蕨で人の身体を診て暮らしていた勇吉のもとに、一人の「腰の悪い男」がやって来たことだった。
百五十五年後。
蕨で小さな整体院を営む五十歳の由三は、代々この街に住んできたにもかかわらず、土地も財産も特にない。
酒が好きで、胡瓜が嫌い。
見た目はちょっと怖い。
そして自分の先祖のことを、ほとんど何も知らない。
そんな由三が偶然見つけた、明治四年の古い施術帳。
そこには、
「浦和へ県庁を渡してはならぬ」
「酒席にて話まとまる」
そしてなぜか、
「胡瓜出る。食わず。やはり敵なり」
と書かれていた。
どうやらこの一族、百五十年前からあまり変わっていない。
これは実在する蕨の歴史を土台に、「もし明治のあの日、蕨が別の道を選んでいたら」を描く歴史IF物語。
県庁、鉄道、震災、東京編入。
時代が変わるたび、なぜか歴史のすぐそばにいる「ゆう」の名を持つ一族。
ただし本人たちは、歴史を動かしているつもりなどまったくない。
だいたい最初は、酒の席から始まる。