あらすじ

「お前の物は皆の物だ。独り占めは醜い」 婚約者のエグモントは、令嬢たちの真ん中でそう言った。令嬢の一人の髪に、私の母の形見の櫛が挿してある。 私はルイーザ、二十七歳。王宮の施与官を六年務めている。王家が民へ配る物の宛先を決め、手渡し、受け取った者の名を覚える役だ。 施与官は、持ち主が皆の物だと言った物しか配らない。婚約者は施与官ではないのに、私の馬も、冬の外套も、母の櫛も、令嬢たちへ配ってきた。そして、お優しい方と言われている。 「承知しました。では、貴方の物も皆の物ですね」 「当然だ。伯爵家の物は、皆の物だ」 翌朝から、私は施与官の作法で配った。剣は門番へ。馬は駅逓へ。葡萄酒は施療院へ。門番は敬礼し、手紙は一日早く着き、患者は伯爵令息のお志に感謝した。皆の前で言った言葉は、皆の前でしか取り消せない。婚約者は、取り消せなかった。 「もう、配る物は無い」 「配る物なら、まだございますわ」 最後に配ったのは、婚約者の座だった。形見の櫛をお持ちの令嬢へ、ひと揃いで。 夕暮れの施与の門に、王弟殿下が櫛を一つ持って立っている。 「配られていない物が、一つある」 配る女が、初めて自分の宛先を決めるまでの三日の話。

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小説を読もう2026/09/07
  • 現在の作品「お前の物は皆の物だ」と私の形見まで配る婚約者様、承知しました――貴方の物も皆で分けます~最後に配ったのは、婚約者の座でした~