あらすじ
ヨーロジア帝国は、大戦争の敗北によってその威信と統治機構を決定的に失った。長く広大な版図を支えていた軍、官僚制、財政はいずれも疲弊し、首都では食糧不足と物価騰貴が民衆を追い詰め、地方では民族対立と農村不安が一気に噴き出した。敗戦は単なる外交上の失策ではなく、帝国そのものの土台を崩す破局であった。
やがて皇帝は退位し、旧秩序の崩壊の上に臨時政府が樹立されたが、それは国家を統合するにはあまりに弱かった。各地では兵士評議会、労働者組織、農民委員会、民族自治勢力、旧軍系義勇兵が乱立し、帝国の解体はそのまま武力衝突へと転じた。こうしてヨーロジアの大地は、革命と反革命、自治と統一、理想と報復が複雑に絡み合う内戦へと沈んでいった。
数年にわたる流血と飢餓、報復と動員の末、旧帝国の残骸の上に成立したのが、ヨーロジア民主共和国連邦である。それは帝政の崩壊と内戦の終結を制度として固定するための新国家であり、諸地域と諸民族、都市と農村、労働者と復員兵、左派と保守の対立を抱え込んだまま生まれた、きわめて不安定な連邦共和国であった。
この物語は、その内戦が終わってまもない時代、戦争の傷と政治的憎悪がなお街路と人心に残る中で行われる。民衆は銃ではなく投票用紙を手にする。だが、平和はまだ制度の上に薄く置かれているにすぎない。選挙は希望であると同時に、内戦の続きを別の形で問う試練でもあった。