あらすじ
王都の片隅で《ベルティエ繕衣店》を営む、遺品繕い師ミレーヌ・ベルティエ。
彼女が見るのは、服の表側ではない。
縫い代、古い針穴、擦れた裏地――人に見せるつもりのなかった場所ほど、その服がどう生きてきたのかを正直に残している。
ある雨の日、十八歳の少女が持ち込んだのは、十年前に亡くなった母親のウェディングドレスだった。
「二週間後の結婚式で、母のドレスを着たいんです」
仕立て直しを始めたミレーヌは、白いドレスの内側に一本だけ使われた赤い糸を見つける。
その縫い目の奥から出てきたのは、亡くなった母親が残した小さな手紙だった。
――私が死んだなら、事故ではありません。
――黒い染料を調べて。
一着のドレスから始まった謎は、十二年前に姿を消したミレーヌ自身の母、王宮の古い礼装、そして消された二十七人の名前へとつながっていく。
服に残された傷は、消すべきものなのか。
それとも、残すべきものなのか。
遺された衣服から人々の人生を辿る、異世界お仕事×連作ミステリ。