あらすじ
戦国の世。
織部信綱、二十五歳。
わずか三十石の禄しか持たない、名もなき武士だった。
武勇に秀でているわけではない。
名門の血筋でもない。
頼れる後ろ盾もない。
だが、信綱には一つだけ、人には負けないものがあった。
人の心を読むこと。
そして、嘘を見抜き、嘘をつき、敵同士を争わせることだった。
「敵の城を攻める必要はない」
信綱は言った。
「敵の味方を奪えばいい」
米を止める。
商人を味方につける。
情報を流す。
敵の家臣に疑心を抱かせる。
刀を抜く前に、敵の城を孤立させる。
そんな異端の戦い方で、信綱は少しずつ戦国の盤面を動かし始める。
だが、彼には一つの大きな謎があった。
十年前、父・織部宗重は「主君を裏切った罪」で切腹した。
信綱は、父を恥じて生きてきた。
ところが、ある日、井伊谷家の当主・井伊谷盛定から驚くべき真実を聞かされる。
「お前の父は、裏切り者ではない」
父は何を知っていたのか。
なぜ殺されたことになったのか。
そして、その背後で暗躍する謎の男、御影道玄とは何者なのか。
やがて信綱は、一人の女間者・お葉、敵国の天才軍師・黒崎玄蕃、そして天下の商人を目指す今井宗兵衛らと出会う。
敵だった者が味方になり、
味方だった者が敵になる。
城を奪い、
敵の軍を崩し、
商人を動かし、
大名同士を争わせる。
そしてついに、信綱は一つの城を手に入れる。
だが、それは終わりではなかった。
一つの城を取れば、次の城が見える。
一国を取れば、さらにその先が見える。
「俺は、天下を取る」
名もなき三十石の武士だった男は、ついに「天下」という巨大な地図へ手を伸ばす。
しかし、信綱はまだ知らない。
自分の人生そのものが、二十年前から誰かによって仕組まれていたことを。
そして、彼を天下へ導こうとしている御影道玄には、さらに別の目的があることを。
これは、刀だけでは天下を取れない時代に、
知略、謀略、金、情報、そして人の心を武器に、名もなき武士が大名へと成り上がっていく物語。
戦国の地図に、まだ名のない男が一人。
その男の野望は、やがて天下を覆っていく。