あらすじ
十年前。
S級パーティー《暁天》の料理担当・間宮和真は、国立第一大迷宮《天底》の最深層――第百二十階層に、たった一人取り残された。
帰還ポッドは消え、地上との通信も途絶えた。
残されたのは、わずかな食料と調理道具だけ。
地上では、和真は仲間を逃がすために命を落とした英雄として「戦死扱い」になった。
だが、和真は死んでいなかった。
食べられる魔物を探し、毒を抜き、魔力を調整し、どうにか一日ずつ生き延びる。
そんな生活の中で出会ったのは、死にかけた黒紫の幼獣だった。
試しに飯をやった。
翌日もいた。
また飯をやった。
気づけば、災害級魔物《蝕界獣》ヨルになっていた。
さらに岩を食う巨大魔物ハコまで居着き、層間断層から人間まで落ちてきて――。
そして十年後。
最深層で停止していた配信ドローンが、突如として再起動する。
世界中へ流れたのは、十年前に死んだはずの料理担当が巨大な鍋をかき混ぜ、その周囲を災害級魔物たちが当たり前のように歩き回る光景だった。
『地上、聞こえるか』
『生存者は俺を含めて三人』
『これから、そっちへ帰る』
そして和真は、カメラの向こうへ平然と言う。
『あと、こいつらも連れていく』
十年前に死んだはずの料理担当と、人類が恐れる最深層の魔物たち。
これは、最深層で十年生き延びた男が、飯を食わせて家族同然になった怪物たちを引き連れ、地上へ帰る物語。