あらすじ
水中なら、俺の方が速い。
高校入学を機に自由形からバタフライへ転向した水野航には、一つだけ絶対の自信があった。
スタートから十五メートル。
水中ドルフィンなら、誰にも負けない。
ところが水泳部には、中学県大会三位の黒田湊がいた。
十五メートルでは航が先を行く。
二十五メートルでもまだ前にいる。
なのに気がつけば追いつかれ――最後には必ず負ける。
悔しくて、練習後は毎日のように五十メートル一本勝負。
「今日は勝つ」
「昨日も聞いた」
何度挑んでも、何度負けても、航は黒田を追い続ける。
しかし、航が黒田の泳ぎを研究していたように、黒田もまた航の泳ぎを見ていた。
追いかける者と、追いかけられる者。
いつしか二人は、互いの弱点を自分の武器へと変えていく。
そして三年、最後の夏。
二人のベストタイムの差は、わずか〇・〇八秒。
最初の十五メートルも。
最後の十五メートルも。
もう、どちらのものでもない。
負けたくない相手がいるから、昨日より速くなれる。
二人の男子高校生が百メートルの水面で意地をぶつけ合う、爽快青春競泳短編。