あらすじ

「代理なんて誰にでもできる。頭を下げて、座って、茶を飲んで帰ってくるだけだろう」 水路番の弔いに出かける支度をしていた朝、婚約者のルイス様はそう言って、七年の婚約を解消した。今日の弔いには、想い人のミレーユ様が行くのだという。 この地方の長老会には〈参会帳〉がある。誰が葬式に来たか、誰が堤を直しに来たかを一行ずつ記す帳面だ。古い決まりで、代理で出た者も家名ではなく本人の名で書かれる。頭を下げたのは体ひとつの人間だから、という理由で。 人を呼ぶとき、この地方の者は参会帳をめくる。名前がよく出てくる者に声をかける。長老会の席次も、その厚みで決まる。 アイリスは婚約解消を承諾し、その日の弔いに、伯爵家の代理としてではなく自分の名で参列した。 七年ぶんの義理は、伯爵家には一件も積まれていない。 ――「面倒だから行かない」と決めたのは、いつも彼のほうだった。

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小説を読もう2026/09/06
  • 現在の作品あなたの代わりに七年、頭を下げてきました。――その義理は伯爵家にではなく、わたしに積まれております