あらすじ

会社に傘を忘れた夜、榊原透は、雨を避けて入った路地で一人の女に呼び止められる。小さな祠を指して、何に見えるかと尋ねる女。神社だと答えると、彼女は少し安心したように「じゃあ、まだ大丈夫です」と言った。妙な人に会ったと思っただけで、透は濡れた靴を気にしながら帰宅した。 翌朝、同じ場所に祠はなかった。そこは二十年以上も前から使われている月極駐車場で、道を間違えたのだろうと納得しかけたころ、スマートフォンに撮った覚えのない写真が見つかる。雨に濡れた祠が写っていた。その戸の奥には、小さな建物に収まるはずのない床が続いていた。 写真と現地を比べれば、塀の傷も、建物の位置も一致する。誰かに見てもらおうと思うのに、いざ話そうとすると、わざわざ聞かせるほどのことでもない気がしてくる。会社の用事や買い物に気を取られ、やがて透は、祠を調べていたことさえ忘れてしまう。それでも写真は残り、何も知らない顔をした自分の前に、もう一度現れる。 ありえないものを見た翌日も、電車は走り、仕事はあり、洗濯物は溜まっていく。その暮らしから外れかけたものを辿るうち、透は、忘れられた場所と、忘れずにいる人々に出会う。彼らが知る街は、透が三年間暮らしてきた街と重なりながら、どこかが違っていた。 あの夜、女は何を確かめたのか。「まだ大丈夫」だったのは、何なのか。続きを知るには、まず、そう尋ねたかった自分を覚えていなければならなかった。

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小説を読もう2026/09/06
  • 現在の作品世界はまだ、忘れている