あらすじ
山間のダム湖へと沈んだ故郷の集落。
数十年ぶりに葬儀で帰郷した湊谷真一は、幼馴染だったはずの女性・紗和と再会する。
しかし、彼女にはどこか違和感があった。
連絡先はあるのに繋がらない携帯電話。
過去を知っているはずなのに曖昧な言葉。
そして、まるで“そこに存在していない”かのような気配――。
やがて真一は、神社に残された古い「産子(うぶこ)の帳面」を目にする。
そこには、ダムに沈んだ集落で生まれた者たちの名前が、年齢順に記されていた。
三好夫妻。田原。吉村。本田。森本。紗和。そして、真一。
名簿の名前をなぞるように、人が死んでいく。
亡者のように現れる“何か”。
水底へ沈んだ祠。
忘れ去られた産土神。
そして、幼い日に真一が口にした、ひとつの願い。
――カエシテクダサイ。
これは、湖底に消えた祠と、
帰れなかった少女を巡る、静かな因習幻想譚。