あらすじ
午前二時。巨大な商業ビルの深夜警備員を務める元劇団員の男・高木蒼生(たかぎ あおい)にとって、誰とも話さない孤独な夜勤は、ささくれ立った心を麻痺させる唯一の安らぎだった。
ある夜、いつものようにポータブルラジオのイヤホンを耳に巡回していると、下層階で物音が響く。直後、ラジオの深夜番組からこんな声が滑り込んできた。 ——「四階のフロアで一人、無心で床を磨いています。上の階の警備員さんの足音が、意外とリズム感あって、少し安心します、だってさ」
下の階で深夜清掃をしている誰かもまた、自分と同じラジオの周波数に耳を傾けていた。 顔も名前も知らない。けれど、自分の足音が誰かに届き、誰かの気配が夜の静寂をとかしていく。それは孤独な夜をやり過ごすための、名前のない静かな関係だった。
野良猫の迷い込みや、クスリと笑えるやり取りを経て、二人の距離は少しずつ、確実に縮まっていく——はずだった
これは、深夜のビルとラジオが繋いだ、ちょっと不器用で温かな、ふたりの夜更かしの物語