あらすじ
【あらすじ】
「あなたはもっと美しくなれる」
前世で、その言葉を教えたのは、上司だった。
「効果? 効くとは言ってないから大丈夫。これなら、嘘にならないでしょう」
化粧品の売り場に立っていたルカは、粗悪品と知りながら、その言葉で客に売った。自分が顔を整えて、喜んでもらった、その同じ相手に。
今世。彼女は、客を美しくしない。他人に塗られたものを、落とすだけだ。
ある夜、独立二年目の仕立て職人ミレイユの顔から、色が抜けていた。後輩に王室納品の指名を奪われた夜、彼女は「青い看板の店」で霊液を買っていた。
「もう二十五よ。今さら綺麗になりたいなんて、みっともないでしょ」
「それ、誰が決めたの」
被害は王都全域で三十一件。全員が「店で買った」と証言し、全員がその店の場所だけを思い出せない。
やがてルカは、霊液の中身にたどり着く。それは、別の客から抜き取った顔色だった。
誰かが美しくなるたび、誰かが色を失う。
そして店主は、こう言ってのける。
「私が売っているのは『あなたはもっと美しくなれる』という、一行の文章です。何も約束していない。だから、何の法にも触れない」
その言い方を、ルカは知っている。
落とすのはルカ。捕らえるのはシオン。裁くための法を書くのはアデル。
三人がかりで一本の瓶を隅々まで調べ上げる、偽物を落とす相談所の話。
ただし、その瓶に詰まっているのは——
【舞台】
ガス灯の点る商都・王都。表通りには王立薬事監督局の規制が及び、路地裏には「昨日はなかった店」が立つ。
霊液の販売は違法。だが、売り文句そのものは、まだどの法にも触れない。
【登場人物】
ルカ(20代・美容コンサルタント)
値段の交渉から始める。前世は化粧品の売り場。銀の手鏡で「その色が誰のものか」を読む。武器は原価計算と、売り文句の分解
シオン(異端審問官)
銀の鎧と、三年ものの眉間の皺。冗談が通じない。ルカの、最初の男性客になる
アデル・ホーソン(34・王立薬事監督局 主任監督官)
三年かけて規制令の書類を書き続けている。「あなたが一人治すあいだに、店は十人に売る」
ヴェイル(「青い看板の店」店主)
柔和な笑み、笑っていない目。美は在庫だと信じている。四十年前は、買う側だった
【この巻の到達点】
開業資金、金貨百枚。三年で三枚しか貯まらなかったものが、一晩で埋まる。
だが王都で一番光の入るあの角には、契約に行くより先に、別の誰かが看板を掲げていた。
シオンとの関係は、握手まで。二人とも、まだ何も言っていない。
【依頼と事件】
後輩に指名を奪われた仕立て職人、引退を勧められた女優。そして毎話、瓶が一本ずつ。
本店の名が出るのは、この巻で一度だけ。
【二巻以降】
落とす(クレンジング)から、隠す(ベースメイク)へ。扱う問題は、個人から社交界、司法、契約、世論へと広がる。
【補足】
呪詛は「顔から色が抜ける」表現で統一しています。流血・残虐描写はありません。
恋愛はバディとして進み、第1巻では告白に至りません。