あらすじ
「『おかえり』を一回、頼めますか」
最初の客は、夕飯より先に妙な注文をした。
冒険者を三日で辞めたトーマは、国境の町で小さな宿を開く。売り物は、温かい飯と風呂と、帰りを待つ明かり。名づけて「実家代行」。
疲れた青年を泊めたら、翌朝、その正体が勇者だと分かった。
それだけでも困るのに、次に来たのは、大きな魚を手土産にした魔王。敵同士が同じ食卓につき、食後の予定より先に、おかわりの鍋をのぞき込む。
帰る予定を言わない配達人。娘に会いに行けない行商人。自分の食堂を夢見る相棒。
事情を抱えた客を迎えるうち、宿には少しずつ「ただいま」が増えていく。
ただし、宿主自身は三年間、実家に帰っていない。
家族には、立派な冒険者として活躍していると嘘をついているからだ。
他人の帰る場所を作る青年と、そこで一息つく人々の、笑えて温かいお仕事ファンタジー。
本日の夕飯は煮込み。食卓での決闘は、お断りしています。