あらすじ
近未来。
AIの爆発的な発達によって、人間の労働力の価値は暴落した。
世界人口の大半はAIによって仕事、評価、賃金、生活まで高度に管理され、生存に必要な最低限の報酬と引き換えに働く。富はごく一部の人間へ集中し、それでも社会は「効率化された」と称賛されていた。
そこへ気候変動が追い打ちをかける。
食糧、水、エネルギー、レアメタル。
生き残るための資源をめぐって世界は分裂し、ついに核保有国同士が全面戦争寸前まで到達する。
しかしAIが示した未来予測は、あまりにも明快だった。
――全面核戦争に、勝者はいない。
核の冬によって食糧生産は壊滅し、戦勝国すら国家として生き残れない。
それでも国家は、領土も資源も威信も諦めなかった。
ならば――戦争そのものを小さくすればいい。
国家は五人の代表を選ぶ。
武器なし。
薬物なし。
身体改造なし。
どちらかが戦闘不能になるまで戦い、五人全員が敗れた国は、あらかじめ賭けた領土、資源、水利権、海洋権益を勝者へ譲渡する。
死人が出ても、戦争よりは遥かに人道的。
こうして人類は、第三次世界大戦を回避した。
代わりに始まったのが――
「第三次世界対戦」。
試合は世界数十億人へ生中継され、国家代表は英雄となり、スポンサーが付き、巨大な賭博市場が生まれた。
戦争による民間人死者は激減した。
そして国家間の「対戦」は、爆発的に増えた。
そんな世界で、東シナ海の深海資源をめぐり、日本と中国の対戦が決定する。
日本代表は五人。
元MMA世界王者。
元陸上自衛隊特殊作戦群。
元横綱。
古流柔術の異端児。
そして最後の一人。
佐伯修司、四十四歳。
物流会社勤務。
格闘技経験――なし。
世界中が笑った。
本人も言った。
「人違いじゃないですか」
だが国家戦略AIは、何度計算しても彼を選ぶ。
日本代表候補、勝利寄与率第一位。
なぜ、この普通の男なのか。
そして人類はまだ知らない。
戦争を安全にしたこの制度が、いったい誰のために存在しているのかを。
人間の価値をAIが決める時代。
国家の命運もまた、五人の人間に託された。
社会派・国家対抗格闘エンターテインメント。
『第三次世界対戦』